2007-01-01から1年間の記事一覧
目の前に水の入ったガラスのコップがある。無印良品で買った、丁度指が四本分の小さな灰色がかったものだ。 水はミネラルウォーターでも何でもない東京都の水道水。冷たそうにも温かそうにも見えない。ただひたすら混じり気のない透明な液体。 その水面は、…
今宵、満ちたから。 空に浮かび、波立てず泳ぎ、涼しく燃え、舞い落ちるように朽ち、血の気引いて白み、か細く唄い、声なく微笑み、器は潤い、泪零れ、闇に惑い、光に眩み、未来に臥し、影を重ね、昨日を悼み、あこがれに誓い、夜を離れ、美しく眠る月。それ…
憂鬱に眠らないで あなたを絡め取りたい 表情は変わりなく 白い指が答えるの ずっと待っている 雨に消えないでと もしも聞こえるなら ひとつだけ教えて 爪先まで冷やして 星や湖眺めた そう、僕の光だよ あなたは気付いてた?
別れ際、あなたはそっと目線を落として溜め息をつく。 「帰りたくないけれど、帰らなきゃ」 手は握ったまま。 哀しいけれど、嬉しい。 嬉しいけれど、哀しい。
部屋に入ると、先を行く君は黒いジャケットをハンガーに掛け黒く細長いネクタイを緩め、ベッドに腰掛ける。 私は左胸にデフォルメされた髑髏の刺繍が入ったボタンダウンの白いブラウスと緑を基調としたチェックで膝丈のプリーツスカートという、学生服を意識…
あの朝、雲の欠片が 零れ落ちて、百合の花になる 左手、胸において 昨日までとまるで違う世界、感じる 僕は歌になって、すべてをメロディにのせて そして、舞い落ちよう 少しも報われなくとも
ステンドグラスの窓から差し込む陽の光を背にして、白いドレスを着たあなたがゆっくりと手摺にやさしく手をつきながら階段を降りてくる。そして言う 「おはよう」 いつもと変わらない、でも、いつもより愛おしくなる声で僕に微笑みかける。 毎晩、一緒に眠る…
握るなら冷たい手がいい。 聖なる存在に触れているみたいで。 それでいて、本能が揺さぶられる。 細くて白くて長いあなたの指を、僕の指と絡める。それはもうぎこちなく。 それから、時々視線を合わせて、ゆっくり夕闇の街を歩くんだ。
星。歌うこと。 空。願うこと。 湖。眠ること。 闇。走ること。 花。祈ること。 海。見つめること。 街。泣くこと。 光。愛すること。
今日もあの人とすれ違った。その顔を目に焼き付けたいのだけれど、出来ない。見ていることを悟られたくないから、なんでもない風な顔を装ってすれ違う。それから気づかれないように振り返り、後姿をしばし眺める。 あの人の左手の薬指には指輪がある。それが…
2月1日 無趣味、無感動、無関心、無口。この世界に適応できません。 2月2日 太宰治になりたい。 2月3日 本当に僕は醜い。死ねば美しくなれる。死ぬことでしか美しくなれない。 2月4日 さようなら。 2月5日 生まれたことがそもそもの間違い。 2月…
曇り空。霧がかかった夕暮れ。レインボーブリッジがうっすら見える。 「あなたは僕なんです」 そう思ってため息を漏らす。 あこがれと仲間意識と、あとは何だろう。
あなたは美しい。 戸惑い、悩み、苦しみ、躊躇い、嘆き、祈り、言葉を紡ぎ出そうとする様。そのすべてが美しいのです。 だから、お願いです。今のようにそっと咲いていてください。 そして、見つめさせてください。
そう遠くはない、向こうの電線の上でカラスが鳴く。私と同じカラスなのに言葉が違っているから、何を言っているのかはわからない。あちらは群れて、どうやらおもしろい話をしているようで、笑い声が聞こえてくる。 いつからかは覚えていないが、私は彼らと違…
この場所でハーブティーを飲みながら目を閉じると思い浮かぶ。 黒いレースの日傘を差したあなたが遠くからゆっくりこちらに向かって来るのを。フリルのあしらわれた白いブラウスに、プリーツが細かく入った黒いスカート。首元には小さなうさぎのネックレス。…
お互い無口なもの同士のデートなら、この店がきっといい。沈黙が苦にならないから。僕にはその良さがわからないが、古いオーディオ機器が主として鎮座するミニ・ホールと言える名曲喫茶に居る。 扉を開けて入ったときに流れていた軽快なピアノ曲のせいか、最…
好きな人がいるんです。 でも、その人には立派な恋人がいて、いえ、その人の口から聞いた限りなので、相手がどのような人柄なのか存じませんけれども、とにかく私の付け入る隙がないようなのは確かです。 前から密かに思いをよせていて、遠くからそっと見つ…
休みの日ともなれば大勢の人が絶え間無く押し寄せるのに、水曜日だからガラガラに空いているショッピングセンターの立体駐車場の屋上で、すっかり暗くなってしまった街並みをぼんやりと眺めながら、「もうすぐ、あのバイパスが開通してうるさくなるだろうけ…
少年は旅に出て以来、初めて故郷に帰ってきた。そこはどこでもない場所。地図の上には存在しない。 少年はこれまでの旅を振り返るようにして、毎日歌を唄った。昔の曲だったり、その時につくった曲だったり。まだ上手く弾けないギターを連れ、あるときは海岸…
山手線の内回り。僕はシートの端に座っていた。 ふと、向かいの女性にじいっと見つめられているのに気づく。その視線は好奇のものでもなく、不審者をみるものでもなく、何かを確かめているような。 驚きを隠そうと努めながら、その女性の目を見つめ返した。…
静かな音楽とやさしい香りが流れてくる落ち着いた待合室だった。初めての病院。初めての科。やがて与えられた番号で呼ばれた。診察室に入る。 そこで話したことは忘れてしまった。メモを手にしていったのだが、何か僕の気持ちが邪魔して、書き出しておいたこ…
あなたは何時でも歌っている。 詞、体温、気持ち、姿や眼差しまで変わっても、 声だけは変わらない。 その声で、いつかの言葉を僕は聴く。 止まった過去に今日も祈る。