『グラス』

 目の前に水の入ったガラスのコップがある。無印良品で買った、丁度指が四本分の小さな灰色がかったものだ。
 水はミネラルウォーターでも何でもない東京都の水道水。冷たそうにも温かそうにも見えない。ただひたすら混じり気のない透明な液体。
 その水面は、ヒトが脈打つかのごとく常に細かく震え、生命を想わせる。同時に、水とコップが一体となって周囲の景色を歪ませて映し出す装置になっている。
 「装置」として考え始めたら、そこに重さが感じられた。ずしりと構えているが突然、机に穴が開きコップが落ちてしまいそうなほどの。
 小さな小さな虫がいれば、このコップの縁を走り回ってはしゃぐかもしれない。人間には到底出来ない楽しみ方をするのだろう。
 こうしている間にも、水は蒸発している。いや、天使が一滴一滴ずつ吸い取っているのだ。