『美しい人』

 今日もあの人とすれ違った。その顔を目に焼き付けたいのだけれど、出来ない。見ていることを悟られたくないから、なんでもない風な顔を装ってすれ違う。それから気づかれないように振り返り、後姿をしばし眺める。
 あの人の左手の薬指には指輪がある。それが返って魅力的なのだ。ワンピースが白くても黒くても似合っている。風邪をひいていたのか、ピンク色のマスクをしていたときも、また、似合っていた。
 初めて、か細い声を耳にしたとき、これを記憶にとどめておこうと必死だった。
 あの人を、今日も、想う。