『くちづけ』

 部屋に入ると、先を行く君は黒いジャケットをハンガーに掛け黒く細長いネクタイを緩め、ベッドに腰掛ける。
 私は左胸にデフォルメされた髑髏の刺繍が入ったボタンダウンの白いブラウスと緑を基調としたチェックで膝丈のプリーツスカートという、学生服を意識したトラッドな装い。もう十分大人と言える年齢だけれど、君の前では少女でいたいから。
 私は君の前に向かって立つ。
 少し姿勢を崩した背の高い君を見下ろす。
 私は白い太ももを開き君に跨った。
 君は両手を私の腰に添え、目の先を下にやる。恥ずかしい。
 私は両手でそっと君の頬を包み込み、顔をゆっくりゆっくり近づける。
 心臓が高鳴る。共鳴するかのように響き合うのを感じる。視線が一致した。
 私の頬はきっと色づいている。
 私は目を合わせたまま唇が触れ合う寸前のところで動きを止め、目を瞑った。
 それは合図。
 君の唇が私の唇に重なる。震えている。
「目を閉じて息を殺すようにキスをする表情がたまらなく可愛いんだよ」
 そう言う君。
 ゼロの距離から愛でられるこの喜びを失いたくない。