『空へ』

 そう遠くはない、向こうの電線の上でカラスが鳴く。私と同じカラスなのに言葉が違っているから、何を言っているのかはわからない。あちらは群れて、どうやらおもしろい話をしているようで、笑い声が聞こえてくる。


 いつからかは覚えていないが、私は彼らと違って、ゴミ袋を漁らなくなった。口にするのは、ある老いた夫婦の家のベランダの、その妻のほうが世話をしている苺のみ。なぜだか、彼女は私がその苺を啄ばむのを止めなかった。確実に知っているのに、追い払ったりせず、不思議だった。
 近頃、体がだるかった。羽ばたくのもしんどい。私と違う言葉を話す彼らの声は、わずらわしいばかりだった。
 夜明け前、空気を楽しむように飛んでいると、羽が痺れてきて飛ぶのもままならず、やっとのことで降り立った人家のコンクリート塀の上に止まるのも数秒。ついに倒れた。
 ああ、そうか。毒をもられていた。


 私は今、電柱の側のゴミ置き場にいる。このまま死ぬのだろう。ここからゴミとして捨てられるのだけは嫌だ。せめて言葉は違えど同じカラスに食べられたい。彼らに目玉を耳を羽を齧られ、再び空へ舞い上がりたい。