『日傘』

 この場所でハーブティーを飲みながら目を閉じると思い浮かぶ。
 黒いレースの日傘を差したあなたが遠くからゆっくりこちらに向かって来るのを。フリルのあしらわれた白いブラウスに、プリーツが細かく入った黒いスカート。首元には小さなうさぎのネックレス。弦楽器の曲でも流れてきそうな登場。顔が見える距離まで近づいてようやくその涼しげな表情が読み取れます。
 でも、そこまで。まぶたの裏に現れる映像はそれでお終い。何度繰り返しても。
 楽しい思い出でも、悲しい思い出でもありません。ただ、数秒の動画を眺めているようなもの。
 儚い、しかし、卵のように滋養のある大切な記憶です。