『カノン』

 ステンドグラスの窓から差し込む陽の光を背にして、白いドレスを着たあなたがゆっくりと手摺にやさしく手をつきながら階段を降りてくる。そして言う
「おはよう」
 いつもと変わらない、でも、いつもより愛おしくなる声で僕に微笑みかける。


 毎晩、一緒に眠るけれど、起きるのは僕のが先。朝、目覚めた僕は横を向いてあなたの寝顔を見てうっとりする。白くて綺麗な肌。整った目、鼻、唇。長くて艶やかな黒髪。額にそっとキスをする。それから、先に部屋着に着替えて、朝の支度をする。あなたを無理やり起こしたりはしない。


「おはよう」
 僕はあなたの言葉に答えて、それから手を取り合って目を閉じ二人で願いをささげる。
「今日も良い一日でありますように」
 この儀式を済ませたら少しの間、あなたを見つめる。あなたは眠たげで目を伏せる。僕は抱き寄せて、温かみを感じ、そっとキスをする。
 今日も新しい命が吹き込まれて、また現実という名の夢が始まる。