『スケッチ』

 一年にたった一度、二度と来ない秋が始まる。ここでしか生まれない季節。一期一会。大切にしたい。


 水曜日の朝。黒猫のカーテンを開ける。窓の外。
 仰ぐ灰色の空。小雨降る。しとしと、と。水たまりがちらほら目に映る。
 制服に着替えた。朝ごはんを食べた。歯磨きをした。身支度は済んだ。
 靴に足を滑り入れ、傘を持つ。一歩踏み出し、玄関の扉を開ける。隣のともだちも同時に出てきた。
「おはよう」
 元気のよい挨拶と柔らかい目線が重なる。


 鉄の安っぽい階段。下る靴音。女の子が二人。軽やかに話す声。
 歩みを止め、目の前にはすぐ学校。もう一度、
「おはよう」


 帰ってくれば、ベッドで大の字、背伸びをして。
 起き上がれば、くつろいだ格好で温かい紅茶。丁寧に淹れたアールグレイ。今日は少し肌寒いから。


 締めは全てを洗い流すお風呂。湯船は濁って桜色。薫るはちみつ。響く浴室では独り言。
 楽しみが溢れている。
「おやすみなさい」